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2009年7月23日 (木)

【くろがね線を読み解く】第17回 ■くろがね線の車両はJRより大型 は真実か?

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■第一操車場を発車する八幡行き貨物列車 2009年6月

 2007年4月12日と13日の二回にわたり、レイルマガジンの名取紀之編集長のブログ『編集長敬白』において、くろがね線が取り上げられた。

新日鉄「くろがね線」瞥見。(上)

詳細は上記リンクの記事をご覧いただきたいのだが、その中に、くろがね線と車両の大きさに関する気になる記述があったため、ここに一部を引用させていただく。

>専用鉄道といってもまったく他線と連絡しない独自の存在だけに、車輌限界もひと回り大きめに設定されているようです。

くろがね線に関してネット上で検索してみると、

  • 他線と接続のない独立した路線
  • 車両はJRより大型

といった記述が蔓延しているのを目にする。しかしそのほとんどは編集長敬白の記事より後に作成されたものであるため、件の記述を参考にして書かれた可能性が高い。だが、本当のところはどうなのだろうか? 一番確実なのは、路線や車両のスペックを確認することである。

1.くろがね線はJR鹿児島本線と接続している

 N社公式ホームページ掲載の中期連結経営計画(2003~05)によると、N社の生産する鉄道用レールの国内シェアは65%。そのうち鉄道で輸送されるものは、条鋼工場(レールを製造している工場)でレール輸送専用貨車に積載され、構内の線路を通ってJR黒崎駅分岐(旧・西八幡駅)へ至り、ここでJR鹿児島本線へと送り出され、全国各地へ発送される。第16回の記事の通り、条鋼工場はスペースワールド駅近くにあるし、くろがね線の機関車の点検設備(機関区)も同駅付近にあるため、当然線路は繋がっている。Googleなどの衛星写真で確認していただければ、より分かりやすいだろう。事実、くろがね線の線路がJRと接続していることを利用して、近隣の専用鉄道の入換用機関車が回送されることもある。

2.くろがね線の車両限界はJRと同等

2-1.路線の車両限界の比較

 ディーゼル機関車の紹介記事にも記載したが、くろがね線を走行している車両の多くは、機関車・貨車を問わず、日立製作所と日本車輌製造が納入したものである。寸法に関する網羅的な詳細資料を公開しているのは今のところ日本車輌だけなので、『日車の車輌史』を手がかりに寸法を確認することにした。

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上図には、1987年4月1日付で、いくつかの鉄道関連法令を統合する形で施行された普通鉄道構造規則に示された車両限界黒と青の実線で示した[1]。日車の車輌史掲載くろがね線の車両限界で示してあるが、重ねて比較をしてみると細部を除き完全に一致することが分かる。一致しない細部とは、車体側面の一部と台枠より下の部分である[2]

2-2.車両の寸法の比較

 次に、専用線の機関車を研究する者の間ではバイブルとも言える、朝日新聞社『世界の鉄道’69』、同『’70』を確認してみることにする。この書籍は、朝日新聞社が各私鉄・専用線(専用鉄道)使用者へ車両や路線に関する調査票を送付し、戻ってきた回答をまとめた資料なので、信頼性に関しては申し分ない。無論、調査時期が1960年代後半であるため、資料掲載の機関車の多くはすでに新形車両に置き換えられたりして現存しないものも多いが、各車両の詳細スペックが掲載されているので、寸法の確認にはもってこいである。

早速、くろがね線を走行していた60t電気機関車全形式と、緩急車として使用されていた可能性のある35t・45tディーゼル機関車全形式の寸法を確認してみた。すると、EL・DLいずれについても、2,800mmを超える車体幅を持つ車両は存在しないし、4,200mmを超える高さを持つ車両も皆無であった。現在使用されている車両については、次の通りである。

  • 60DD-3形 車体幅(最大);2,745mm、高さ:3,730mm
  • 70DD-3形 車体幅(最大);2,780mm、高さ:4,000mm
  • 85ED-1形 車体幅(最大):2,880mm、高さ:4,090mm

一方、国鉄・JRの車両限界は、車体幅は3,000mm高さは4,100mm(パンタ折り畳み高さは4,300mm)が標準で、EF81形電気機関車などはかなりこの限界に近い設計であるから、「大型」どころかむしろ大半の車両について「くろがね線の方が小さい」とさえ言える。

2-3.甲種輸送

 『鉄道ピクトリアル』1972年7月号には、日本車輌製造豊川工場で製作されたくろがね線用のDL(70DD-1形D701号機)が、飯田線・東海道・山陽本線経由で甲種輸送されている写真が掲載されている。輸送されたのは1972年4月6日で、翌7日には同じルート・ダイヤでD702号機も輸送されている。国鉄より大型の車両が、どうやって国鉄線を走行するのだろうか。これこそ動かぬ証拠である[3]

3.結論

 今回の記事では、くろがね線がJR線と接続していること、ならびにその車両限界もJRと同等であることを示した。どのような専門的な研究も、人間のやることであるから間違いはつきものである。冒頭で引用させていただいた編集長敬白の記述は、残念ながらあまり正確ではないのだが、ここで吊るし上げるのは本意ではない。むしろ、得られた情報が本当に正しいのかどうか、まずは自分の目で確認してみることの重要性を再認識させられた次第である。この記事をきっかけにして、くろがね線や製鉄所の鉄道に関する研究が、より丁寧に進められていくことを期待している。

【脚注】

  1. 2002年以降は、現行法令「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」の解釈基準において、車両限界に関する基準値が同様に定められている。
  2. 普通鉄道の車両限界では、車体の幅は原則として3,000mmである。ただし、標識灯・車側灯等に対する遊びを考慮し、(レール面基準で)高さ1,880mm~3,150mmの部分の基礎限界(幅)は3,200mmとなっている(図中の紫色の部分)。また台枠より下は2,850mmとなっている。一方、くろがね線の車体幅は面一で3,000mmである。
  3. 過去には、K社M製鉄所向けの機関車の車体が大物車「シキ」に積まれて輸送されたことはあった。このケースでは、車端の簡易運転台と一体化した遮熱版の断面が、国鉄の車両限界を超えていたものと思われる。シキで車体ごと持ち上げれば運べるということは、幅は最大でも3,000mmに収まっていたのだろう。

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