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2010年1月 2日 (土)

【スイッチャー分類学】第1回■はじめに

 日本には、かつて3000以上の専用線が存在していました。専用線とは、荷主企業が自社の工場や倉庫などで、鉄道貨車により原料や製品の受入・発送をするために敷設した線路のことです[1]。よく、使用されているのかどうか分からないような錆びた線路が、駅の端の方で本線から分岐して、どこかへ向かっていく光景を目にしますが、そういうものは大抵が専用線です。専用線の多くは、国鉄・JR(ないしこれに接続する私鉄)の線路に接続しており、全国の貨物輸送網に組み込まれる形で、物流の一翼を担っています。近年では、JR貨物が推進してきた合理化の流れ(専用貨車のコンテナ化)に呼応するように、専用線も徐々に数を減らしてきています[2]

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■S社G工場と、敷設された専用線。セメント専用タンク車が並ぶ(許可を得て撮影) 2001年12月、本巣

 専用線の最大の魅力は、なんといても一般の旅客鉄道ではお目にかかれない個性的な産業用機関車が活躍していることでしょう。これらは「スイッチャー」「シャンター(shunter)」「入換動車」などと呼ばれます。この特集では、このスイッチャーの分類を通して、産業用機関車の発展の歴史や現在の動向にも触れていければと思っています。

●分類の意義

 私がスイッチャー分類の必要性を痛感したのは、九州は延岡にあるA社N工場を訪れたときでした。この工場には、JR南延岡駅から専用線が引き込まれており、液化塩素や繊維製品が貨車で発送されています。当然、この工場には貨車の入換を行うためのスイッチャーが配置されていて、駅にも出てくるのですが、工場の規模から考えても1両だけでは無いだろうと訪問前から考えていました。

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■A社N工場専用線で活躍するスイッチャー。こちらは駅に出てくるタイプで、
 液化塩素専用タンクコンテナを積載したコンテナ車を工場へ引き込むところ。  2006年8月、南延岡

 この工場は、もちろん内部に入ることはできないのですが、広大な敷地を南北に分断する形で公道が横切っており、南側に液化塩素の荷役設備、北側に繊維製品の荷役設備があります。北側で荷役を行うためのスイッチャーが動くのを見たときは感激しましたが、線路配線の都合で、遠景で正面から見ることしかできませんでした。これでは、動いた車両が2軸機なのか4軸機なのかすら分かりません。

 もし、スイッチャーの分類をしておらず予備知識が無ければ、せっかく苦労して観察しても「なんか1両動いてた」で終わってしまったかもしれません。これは、とても勿体ないことです。しかしあらかじめ分類しておくことで、目撃したスイッチャーが「協三工業製15機」であることがわかるのです。

 産業用機関車は、部外者が観察しにくいような場所で稼動していることもままあります。したがって、少ない目撃チャンスで多くを得るには、事前の分類が不可欠だと、私は考えています。

●どんな手法で?

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■スイッチャーの形状は多種多様。日立製作所製の45t機(左)と、三菱重工業製の35t機(右)

分類の切り口には大きく分けて、外観による分類と、内部構造・性能による分類の二通りがあります。内部的なことは資料にあたらないと分からないことも多いのですが、このブログでは極力両方に光をあてたいと思っています。また、外観による分類については、枝葉末節にこだわりすぎて「木の葉を見て森を見ない」状態では、単なる重箱の隅つつきで終わってしまいますので、「分類によって何が見えるのか」という視点を忘れないようにしたいと思います。スイッチャーは1両1両形が異なるのが魅力のひとつですが、車両ごとの相違点が「分類に値する特徴」なのか「単なる個体差」なのかは、特に注意していこうと思います。

●生きた研究を

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■スイッチャーには、ロッド駆動方式の車両が現存するのも魅力の一つ。
 上は日立製作所製35t機。

 フィールドワークを重視している私は、2009年現在でも観察できるスイッチャーを研究対象にしています(…と偉そうに言いつつ、現実にはデジカメ以前の写真を簡単にサルベージ出来ない事情もありますが)。スイッチャーが最も輝いていた時代は、経済成長に伴う輸送需要の増大により、ディーゼル機関車の開発が急速に進められた高度成長期からオイルショックあたりまでの間だと思いますが、この時代を懐古して話を終わらせるのでは、正直物足りないところです。過去の振り返りについても、「いま動いている車両にとってどういう意味があるのか」という視点を忘れないようにしたいと思います。

●双方向性

 書籍とウェブの一番大きな違いは、情報の双方向性にあります。ナレッジの集積にも有益なので、閲覧している方にご参加いただけるような仕組みをつくれないか、検討中です。アイデアはあるので、あとは技術的な問題がクリアできるかどうか、というところです。

●対象

 この特集では基本的に、各メーカーの「規格型」車両を取り扱います。オーダーメイドの車両を対象から外すのは、スイッチャー特有の広域転配の慣習と関係があります。

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■各社の規格型スイッチャー。日本車輌製造製25t機(左)と、北陸重機工業製25t機(右)

 国鉄にも、九州から関東へ、関東から関西へといった鉄道管理局跨ぎの車両の転属はありましたが、スイッチャーの広域転配の大胆さも、これに負けず劣らずです。富山県の専用線で活躍していた車両が、専用線の廃止と共に姿を消し、しばらくすると静岡県の専用線に現れた、といったことは現在でも珍しくありません。このような場合、オーダーメイド機は車体の形状に特徴があるため、一目見るだけでどこから来た車両なのか判断することができます。しかし規格型の場合は、形ばかりか下手をすると塗装まで同じことがあるので、しっかり分類しておかないと、車両の動静を正確に把握することができないのです。

 こんなことを言うと、「製番(製造番号)をチェックすれば良いではないか」といった声も聞こえてきそうです。しかしスイッチャーは、常に製番を確認できるほどの至近距離で観察できるわけではありません。スイッチャー研究をされてきた方には釈迦に説法かと思いますが、製番の刻印されているメーカーズプレートが外されていたり、付いていても製番部分が潰されていたり、極端な場合は車体の左右両面で内容が異なっていたり、はたまた同一製番の車両が複数存在したり、挙句の果てには車体振り替えで本来の製番とは異なっていたり……状態は様々です。つまり、製番調査は常に研究者の悩みの種であり、万能ではないのです。こういった事情から、また産業用機関車史を探るうえでも、分類は不可欠になります。

 冒頭で、規格型のみを対象にすると述べましたが、「生きた研究」がモットーの当ブログのことですから、規格型から外れる車両であっても、新しい機体や絶滅危惧種については適宜取り上げる予定です。

 用途については、「営業用車両の入換に従事しているもの」を対象にします。ここでいう営業用車両とは、旅客車や貨車など「事業者に車籍を有する車両」のことです。したがって、モータカーであってもこれらの入換に従事しているものは取り上げます。

 動力方式については、電気車・内燃動車の別は問いません。路線については、JR・私鉄・第三セクター・臨海鉄道・地下鉄や路面電車などの公営鉄道・特定目的鉄道・遊園地の園内遊具・製鉄所・鉱山のうち、上の条件に当てはまるものは対象になります。軌間は1,067mm以上を対象とし、ナローゲージは当面見送ります。

●OEMの取扱い

 大手メーカーの中には、産業用機関車製造から実質的に撤退した後も、同業他社の製品を自社ブランドで製造させてリリースしているケースがあります。このような車両はOEM品と呼ばれ、外観・性能において製造元のオリジナル車両とほとんど相違点はありません。このため当特集では、OEM品はOEM供給メーカー側の車両として分類します。

【注】

  1. 専用線は、旧国鉄の専用線規則により「特定貨主が自己の専用に供するため、又は国若しくは地方公共団体が自己若しくは特定貨主の専用に供するために、その負担において敷設した日本国有鉄道の側線をいう。と定められている(第2条)。類似のものに専用鉄道があるが、こちらは鉄道事業法により「専ら自己の用に供するため設置する鉄道であつて、その鉄道線路が鉄道事業の用に供される鉄道線路に接続するものをいう。」と定められている(第2条)。つまり専用線・専用鉄道いずれも、鉄道事業者の線路に接続し、全国の鉄道貨物輸送網に組み込まれているものを指すことになる。
  2. 専用線を経由して工場に出入りしていた専用貨車がコンテナ化されると、大抵の場合専用線は廃止され、コンテナは拠点駅までトラック輸送されることが多い。

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