【鉄道ファン2011年4月号】郷田恒雄氏の連載記事を検証する
ここ10年ほどめっきり購入機会の減ってしまった交友社の『鉄道ファン』。元国鉄大宮工場長の久保さんや、鉄道友の会の岡田さんや福原さんの記事目当てでかろうじて立ち読みさせてもらっていますが、今回は『鉄道ファン2011年4月号』の連載、
「全国の現役機関車をめぐって
民営鉄道の電気機関車・ディーゼル機関車はいま… -その39-/郷田恒雄」
について検証してみようと思います。
●春日井と南延岡の日車35tは同型機ではない
著者の郷田恒雄氏によると、春日井の製紙メーカーの専用線で使用されているスイッチャーと、南延岡の化学メーカーの専用線で使用されているスイッチャーが同型だそうです。そこで、実際に同型かどうか検証してみましょう。
■春日井(製紙メーカーO社専用線)の35t機(左)と、南延岡(化学メーカーA社専用線)の35t機(右)。
どちらも日本車輌製造製のセミセンターキャブの35t機ですが、クリックして拡大してよく観察してみると…
まず台車が異なります。春日井のものは鋳鋼製の日車バーバー台車ですが、南延岡のものは組立溶接台枠です。次に、ボンネット側面の点検蓋に着目してみると、その枚数が異なります。春日井のものは8枚ですが、南延岡のものは9枚です。さらにキャブに着目してみると、前面窓の大きさ・形状が異なりますし、屋根の形状も異なります。
さらに細部まで検証・比較してみると、こうなります。
■上記2両のスペック比較表
結論としては、どう考えても同型機とは言い難いですね。しいて共通点を挙げれば、どちらも車体が青っぽい(笑)
●吉原の元・伏木海陸の日車は15t機ではなく20t機
■吉原の製紙メーカー専用線で活躍中の、日車15t機(左)と20t機(右) 2009年
スイッチャーの自重は、車体にその表記がない場合、調べるのに少々困難を伴います。共通車体の自重違いが少なからず存在しているからにほかなりません。日車の場合、15t機と20t機は車体が共通ですから、慎重な調査が求められます。たとえば協三工業のように、製造番号の上2桁が自重を表しているようなものを除けば、それなりに信頼のおける1次資料(メーカー資料、ないしそれをベースに作成された台帳等)を参照しなければ、正確なところは分かりません。
郷田氏の記事では、上記2両はどちらも15t機とされています。しかし、鉄道ピクトリアル2011年3月号の記事にあるとおり、右側のスイッチャーは15t機ではなく20t機です。出典について興味のある方は、当該記事をご確認ください。郷田氏の記事には銘板調査をしていない旨の記述がありますが、左は昭和45年製の製番2807、右は昭和44年製の製番2868で、これも鉄ピクの記事には掲載済です。
●キャブ側面の番号の意味
前掲の左側のスイッチャーに標されているこの管理番号については、先頭2桁が購入年(導入年)を表しているというのは、昔からのスイッチャーファンにとっては有名な話ですね? 66であれば1966年、89ならば1989年です。これまでの日通のスイッチャーを観察してみると、新製配置車両のみならず、中古購入分についても同じルールで付番されているようです。したがって、銘板に刻印された製造年とは必ずしも一致しません。
ともあれ、日通の社名・社紋が標されている車両を見て、そこに正体不明の番号が書いてあったら、日通が何かを管理するために標した番号ではないかと考えるのが自然な気がしますが。著者の郷田氏が「国鉄/JRの移動機」だと推測した理由がいま一つよくわかりません。国鉄の移動機は付番ルールがまったく異なりますし…。
●「継走」ではなく「継送」
■670レに連結されて春日井を出発したワムは、稲沢で3460レへと継送される。
連載開始当初から気になっていたのが、コレ。もちろん人間のやることにはミスはつきものですから、たまたま漢字変換を間違えたのかもしれません。しかし訂正されないところを見ると、「継送」という用語を知らないのではないかという疑いすら出てきかねません。良い機会なので、ここで整理してみましょう。
- 継走
数人が一組となり、各自が自分の分担距離を走り、次々とバトンを受け渡しして走ること。リレー。 -出典:『日本国語大辞典』小学館
- 継送
1) 物などを次から次へと順をおって送ること。順送り。江戸時代、街道宿駅での貨客の輸送方法で、伝馬宿ごとに人馬を替えて送ること。 -出典:『日本国語大辞典』小学館
2) 貨物を発基地・着基地間の途中駅において、列車から他の列車へ、貨車、またはコンテナ単位で連結して前途を輸送すること。 -出典:『鉄道貨物輸送用語辞典』 社団法人全国通運連盟-
鉄道雑誌のバックナンバーで貨物関係の記事をチェックしてみても「継送」で統一されており、鉄道貨物の世界で「継走」という用語が使われているのを見たことがありません。
仲間内のコミュニケーションやインターネット掲示板でのちょっとした間違いであれば笑い話で済むようなことではありますが(笑)、雑誌に記事を載せるならもう少し言葉の使い方には慎重になっていただきたいものです。
というわけで今回は、「上記の問題箇所が可及的速やかに訂正されることを願わずにはいられない」、と郷田流に締めさせていただきます(笑)
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コメント
ご無沙汰しております。
吉原のSWの件ですが、私自身も車体で15tと勘違いしていました。早速自身のHPの記載を修正させて頂きました。
間違えた私がこう書くのもおかしな話ですが、どうにも推測の多い記事が多く感じますね。
投稿: ひさし | 2011年3月 1日 (火) 10:21
こんばんは。
15t機と20t機は外観だけでは区別が付きませんね。
「日車の車輌史」の図面を見ても寸法に違いがないようです。
中身が違うということなのでしょうか??
実際存在するものでは15t機が圧倒的に多く、20t機は少数派のようですね。
見たもので記憶にあるのは旧高崎運輸のDB201くらいでしょうか。
スイッチャーで同型と取るかどうかもかなり曖昧で前出の「車輌史」でさえもちょっと首を傾げたくなるようなものまで同型と書かれています。(外観がちょっとマイナーチェンジされただけで中身は一緒ということ?)
投稿: 西宮後 | 2011年3月 5日 (土) 22:25
郷田氏は副業だからね~。副業でよくやってるよ。
投稿: 456 | 2013年1月20日 (日) 02:32
皆さんこんばんは
コメント発見が遅れ申し訳ありません。
西宮後さんの仰る通り、車輌史にも不可解な記述はありますが
(例えば、製鉄所に納入された注入台車を「高炉の下に入る」と言ってみたり。実際には転炉です)、
私が問題だと思うのは、
内容の正否はともかく最低限、「出典を記載する」ということが
報告書の作成や論文発表をする際の基本的な作法だと思うのですが、
郷田氏の記事にはそれが一切ないということです。
情報の出所や論拠が明確でないから、
万が一誤った情報が含まれているときに、
その全責任を著者が負わなければならなくなるわけです。
それから456さんが「副業」を理由にされていますが、
それを言ったら現在鉄道雑誌に個人名義で記事を書いている方のかなりが副業ですよ。
例えば鉄道友の会名義の発表であっても、
「鉄道友の会」などという職業があるわけではありませんので、
皆さんそれぞれ本業でお忙しい中、時間を割いて研究・発表しているわけです。
「知らないことは書かない。」
それが読者に対する最低限のマナーでしょう。
もし自身が詳しくないことについて書きたいなら、
きちんと書籍・史料にあたるなり取材をする、
発表する際は情報源を明らかにする、
これが基本でしょう。
投稿: 社長 | 2013年7月24日 (水) 20:30
補足ですが、私ももうすぐ「副業」で雑誌へ発表する予定があります
テーマはスイッチャーです。
北は北海道から南は九州まで、
これまで雑誌やインターネット上にほとんど出てこなかったものを厳選してお届けします(^^)
記事は、鉄道車両メーカーと鉄道事業者へのヒアリングを反映したものになります。
投稿: 社長 | 2013年7月24日 (水) 20:45