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2012年10月17日 (水)

【くろがね線を読み解く】第118回■山本工作所製 冷延コイル輸送用台車

 くろがね線で常時使用されている貨車については、3年ほど前の一連の記事において一通り紹介している。貨車の多くは、日本車輌製造、日立製作所、協三工業、若松車輌などの鉄道車両メーカー製だが、1980年前後から、Y製鐵所の構内作業を受託する関連会社製のものが登場しているようである。背景には、貨車製造内製化によるコストダウンが挙げられよう。

 一般に、車両メーカーの製品は、品質は折り紙つきだが割高でもある。いっぽう製鉄所の構内には、鋳造・溶接の技術を持った関連会社・協力会社は数多くあるし、なにより素材たる粗鋼を製鉄所自身が生産しているので、その気になれば貨車程度は所内で内製できるというわけだ。発注にあたっては、商流に商社などの外部業者を介在させる必要が無く、また子会社や協力会社に対しては、その取引関係をベースに価格交渉を優位に進めることができるので、コストダウンに繋がる。

 今回は、防水フード付の冷延コイル輸送用貨車(K編成)の中から、山本工作所製の車両を紹介しよう。

K5kata9508

 まずは、K5編成に組み込まれているカタ9508。1981年(昭和56年)10月山本工作所製で、自重30.5t、荷重は90tである。このメーカーの貨車は台車に特徴があり、形態は何種類かあるものの、組立溶接台枠+軸バネがコイル、という共通した特徴を備えている。

K5kata9508d K5kata9508s5610yk

カタ9508の台車(左)と、魚腹台枠に取り付けられた銘板(右)。

山本工作所は、戦後の1946年に山本惣庸により興された金属加工メーカーで、Y製鐵所をはじめとする製鉄所の構内作業の受託と、ドラム缶など金属製品の外販事業を生業としている。戦前にY製鐵所に勤務していた山本は、戦後から朝鮮戦争の時期にかけてY製鐵所が実施していた外地引揚社員雇用奨励策に目をつけ、前身の山本組を創業。引揚者の就職の受け皿になるとともに構内作業の優先受注にこぎつけた。その後、1990年3月に構内作業の委託先が日鐵運輸に整理されるまでの間、八幡地区の貨車の定期点検・修繕作業も山本工作所が担っていた。貨車製造を受託したのも、そのような取引関係を背景としたものであろう。

K5kata9512

 次は同じくK5編成のカタ9512。1983年(昭和58年)8月山本工作所製で、自重28.7t、荷重90tである。全長と荷重は同じだが、台車は異なる。

K5kata9512d K5kata9512s5808yk

カタ9512の台車(左)と、魚腹台枠の銘板(右)。

車端部から台枠の下に沿って配管が伸びているが、これはフードを開閉するための電気配線をまとめるための配管と思われる。フードの開閉は常に工場内で行うため、地上から電源を調達することができる。なにも、機関車から遠隔操作を行うための引き通し線を設ける必要など無い。例えばトピードカーの車体を傾斜する場合も、地上のコンセントから電源を調達し、電動で行っているので、ほぼ同じ要領である。

K1kata9511_2 K3kata9515 K4kata9510

手元で確認したところ、他にも上の3両が見つかっている。左から順に、カタ9511(K1編成)、カタ9515(K3編成)、カタ9514(K4編成)で、台車の形態からいずれも山本工作所製と思われる。冷延コイル輸送用貨車は、私の知る限り、K1~K5までの3両編成×5本が存在する。したがって、ほぼどの編成にも1両は同社製の貨車が連結されているといえるかもしれない。

●なぜ冷延コイルは防水の必要があるのか?

 これは、世界の多くの製鉄所の貨車に共通する特徴なのだが、熱延コイル輸送用貨車はオープンフラットカー(屋根の無い長物車)であるのに対し、冷延コイル輸送用貨車は上のように防水用のフード(製鉄所によっては金属製の屋根)を備えている。これは、冷延コイルを濡らさずに輸送するためだが、その理由について詳しく解説した雑誌記事やホームページを、未だに見たことが無い。

以前、とある製鉄所の方に取材した話であるが、冷延コイルというのは、熱延コイルをさらに薄く延ばしたもので、表面に酸洗処理を施し、汚れや錆を洗い落としてある。これがもし輸送中に濡れた場合、再度酸洗を行わなければならず、そのために余計な時間と手間(つまりアボイダブルコスト)が発生することになる。実は、濡れて困る理由というのはその程度のもので、製品そのものが台無しになるほどのクリティカルな問題ではないとのことである。

 貨車研究の第一人者、吉岡心平氏も、かつて国鉄に在籍した冷延コイル輸送用貨車、トキ21500形無蓋車について、ホームページに簡単な解説を掲載 しており、「濡損を嫌う」との表現が見受けられる。たしかに間違いではないのだが、「嫌う」の程度について幅がありすぎるため、受け手によっては誤解を招きかねない表現であるとも言える。鉄道模型メーカーマイクロエースが製品化したトキ21500形貨車の解説記事 のように、「水に弱い冷延コイル鋼板」なる表現は、どう考えても言い過ぎというものだ。

過ぎたるは及ばざるが如し。

鉄道マニアは、機関車ばかりに注目せず、もっと貨車や運んでいるモノにも注意を払い、丁寧にみていくべきだろう。

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コメント

こんばんは

冷延鋼板を製品として出荷する場合は水ぬれはそんなにシビアに考える必要はないと思われます。しかし次工程送り、いわゆる表面処理鋼板(錫メッキ鋼板=ブリキ、亜鉛メッキ鋼板=トタン)にするコイルはかなりシビアに管理します。

高級セダンのボンネット材などはそのような対象になります。Y製鐵所も地元にレクサスの工場があるのでシビアな管理品はあろうかと思います。

投稿: 鹿島田 みゆき | 2012年10月24日 (水) 01:50

鹿島田みゆきさんこんばんは
記事の整理をする中で、いただいたコメントを発見した次第です。
せっかくのコメントを見落としておりました。失礼いたしました。

北九州の自動車工場ですが、
八幡地区で生産されている電磁鋼板の中には自動車工場向けのものがあると
鉄鋼新聞に載っていましたので、
仰る用途のものではありませんが自動車向けの鋼板はありそうですね。

貨車輸送ではないですが、冷延工場は戸畑地区にもあり、
こちらの冷延工場から岸壁への構内輸送は、
キャリアパレットカーによります。
しかし、防水フードは備えていませんでした。
私が見た冷延コイルは、トイレットペーパーのように白いカバーで覆われているだけで、
むき出しの状態で運ばれていました。
こちらは製品としての出荷でしょうか。
興味深いです。

投稿: 社長 | 2013年9月24日 (火) 22:00

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