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2013年11月26日 (火)

【くろがね線を読み解く】第154回■焼き鈍す。

 2013年11月25日月曜日、鉄鋼メーカーN&S社Y製鉄所構内において爆発事故があり、本稿執筆時点で少なくとも3名の死傷者が出ている模様である。報道が正しいならば、事故が起きたのは、変圧器用の電磁鋼板を製造している子会社の焼鈍工場である。

 私のような素人から見ると、製鉄所の構内で最も危険なのは上流工程で、湯(高温の溶けた鋼)を鍋から鍋へ移し替える作業を行っている製鋼工場(転炉)が、もっとも火災事故やそれに伴う死傷者が多く、その次に危険なのが溶銑予備処理施設や高炉周辺という印象である。下流工程、それも冷間圧延の後に続く焼鈍工程では、鋼は固体の状態を保っているため、化学工場のような古典的な爆発事故が起きるというのは、正直意外な気もする。

 さて、報道発表を見る限り、焼鈍(しょうどん)とは何かについてメディアは多くを語っていない。一部には「鉄を焼き固める工場」などという形容があったが、おそらく当該記事を書いた記者は、焼き鈍す(やき・なます)の意味をまったく理解していないのだろう。焼き鈍しとは、金属を加熱して結晶を構成している原子を動きやすく(柔らかく)し、内部の不純物を析出させて取り除いたり、結晶構造を整えたりするためのプロセスである。したがって、冷却して固めるのは最後の段階であり、本質ではない。

 今回事故が起きたのは、電磁鋼板の焼鈍炉である。電磁鋼板とは、鉄が元々持っている磁性に磨きをかけて、電流を流した時により効率よく磁化する性質を持たせた鋼板のことである。発電機やモーター、変圧器などに使われている鉄心が、まさにそれである。電気→磁気変換効率の良い鉄心ほど、同じ磁力を得るために必要な電力はより少なくて済むため、省エネに寄与するというわけである。電磁鋼板の焼鈍では、前述のとおり加熱して鉄原子を動きやすくし、磁束が鋼板中を綺麗に流れるように結晶構造を調整する。結晶構造に乱れがあればあるほど、電流を流した際の発熱によるエネルギーロスは大きくなる。

 電磁鋼板には、圧延方向のみに磁束が通りやすく調整された方向性電磁鋼板と、どの方向にも万遍なく磁束が通りやすい無方向性電磁鋼板がある。前者は主に変圧器向け、後者は発電機やモーター向けである。日経新聞によると、事故は「直径約2メートル、高さ約4メートルの焼鈍炉」付近で起きたとのことである。「直径」と表現していることから察するに、地面に沿って細長く延びている連続焼鈍炉ではなく、その後工程で使用されるバッチ焼鈍炉のことを指していると思われる。となると、Y製鉄所が世界に誇る方向性電磁鋼板の製造ラインで事故は起きたことになる(無方向性電磁鋼板のラインにはバッチ焼鈍炉はない)。

爆発の直接の原因については、いまのところ加熱のプロセスで用いられているガスバーナーのガスに引火したのではないかとされているのだが、そんな単純なことが本当に原因なのだろうかという素朴な疑問は残る。

●焼鈍電車という存在

 さて、ここからは少し話題を変えよう。焼鈍工場には、加熱→加工→冷却の各工程を連続的に行うための連続焼鈍設備が導入されているが、かつてはこれらの各工程が分離していて、小規模ながら工程間の物流というものが存在していたらしい。そのため、焼鈍工場には線路が敷設され、バッテリー駆動の入換用機関車=焼鈍電車が使用されていた。焼鈍電車の走行する線路の一部にはサードレールの設けられた区間があり、使用しない時はそこで充電していたようである。この焼鈍電車、以前弊ブログで紹介した消火電車以上にマイナーな存在で、かつ現在では姿を消しているため、ネットを検索してもまったく出てこない。しかし実は、焼鈍電車の写真が掲載された「書籍」は存在する。岩堀春夫著「鉄道番外録8」のp62を見てみると、鉄鋼メーカー神戸製鋼所の社紋を付けた、神鋼電機伊勢製作所製の整ったスタイルの凸型バッテリー機関車が、大物車に乗せられている様子が写っている。「焼鈍」の文字はどこにも見当たらないが、キャプションの文章から、撮影者はこの機関車の用途を熟知している様子が見て取れる。

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コメント

いつも拙いコメントにレスありがとうございます。
再びお邪魔します。
今回の事故については私も注意してニュース等をチェックしていました。

自分の専門に近いところだったので少しコメントさせてください。

まず、電磁鋼板ですが、電流を流す訳ではありませんのでご注意を…。電流を流すのはコイルであり、コイルからの磁界が電磁鋼板などの鉄心に加えられます。

また、電気→磁気変換の効率が良い鉄心、という表現はだいぶ違います。変換はコイルの仕事です。電磁鋼板は、コイルから加えられた磁界により(飽和することなく)効率のよい形で磁化し、磁気を効率よく伝えるものです。
磁気に"変換する効率"ではなく、"伝える効率"がいいので省エネということになります。

投稿: NS | 2013年12月 1日 (日) 01:48

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