お盆期間中、避暑と青春18きっぷ消化を兼ねて北東北へ行ってきました。秋田では、2011年6月の仮オープン以来の訪問となる小坂レールパークと、そのついでに尾去沢鉱山を訪ねました。両拠点は、鹿角花輪駅経由で路線バスが連絡しているので、鹿角花輪駅前の旅館に泊まり、翌朝フロントに荷物を預けて両方訪ねると楽チンです。
※2017年現在、尾去沢行のバスは麓の集落が終点となり、鉱山前までは行かなくなっています。鉱山へは、鹿角花輪駅からタクシーで10分です。

■尾去沢鉱山駐車場に保存されているニチユ10t半キャブロッド駆動 2017年8月13日
全長1.7kmに及ぶ観光坑道が見どころの尾去沢鉱山には、かつて陸中花輪駅(現 鹿角花輪駅)の側線で入換に使用されていたスイッチャーが綺麗に保存されています。花壇の花も良く手入れされていますし、スイッチャーの方も定期的に塗り直されているようです。1963年(昭和38年)9月に日本輸送機で製作された凸型機関車で、自重10t、車軸配置はBです。最終動力伝達方式は、動輪の片方を動かしロッド棒によって他方へ動力を伝えるロッド駆動方式です。

銘板はこちらの非公式側にあり、型式DL10MC1067、製造番号1025002と判読できました。上写真一枚目とこの二枚目を比較すると、ちゃんとロッド棒の位置(位相)が変えてあるのが分かりますね。角度のズレは90度っぽいですがどうでしょう??

写真はすべてボンネットの蓋を閉じてから撮影しています。訪問時は蓋が開いており、三菱のロゴの入ったエンジンが搭載されているのが分かりました。帰宅後に調べてみると、朝日新聞社『世界の鉄道’70』に詳細が掲載されていました。それによると、調査当時、陸中花輪駅の三菱金属鉱業尾去沢鉱業所専用側線の入換作業は、丸佐運送合資会社が所有する私有機2両によって行われており、うち1両が酒井製の10t機、もう1両がこの機関車でした。諸元は以下の通りです。
- 自 重 : 10.1t
- 全 長 : 5,250mm
- 全 幅 : 2,495mm
- 全 高 : 2,620mm
- エンジン : 三菱ふそう DB31L (130ps/1800rpm)
- 液体変速機:岡村製作所 PM18
- 最高速度 : 21km/h
エンジンは、当時のバスやトラック・建機で汎用的に使用されていた三菱DB系が採用されています。動輪径は、自重8~10tクラスの国鉄貨車移動機のロッド駆動のタイプと同じ660mmです。

スイッチャーの近くには、説明の看板がありました。一般論としてこういった看板の記載内容は間違っていることもあるので鵜呑みは危険ですが、この看板は、入換作業に従事した丸佐運送がこのスイッチャーを尾去沢鉱山へ寄贈した際に立てたもののようですので、読む価値はあると思います。表題の「10トンディーゼル機関車 型式DB-3IL」は、前述のエンジン型式(DB31L)のことを指していると思われます。私有機の場合、複数ある入換動車を識別する際に、番号ではなくエンジン型式で呼称するケースがあるにはありますが、それに相当するのか、はたまた単なる型式の取り違えなのかは、分かりません。
●ロッド駆動半キャブの仲間たち
スイッチャーの保存車は数あれど、この尾去沢鉱山の保存車と同じロッド駆動のしかも半キャブとなると、数えるほどしか残っていませんね。

■JR網干駅前に保存されているニチユ製の同型機。(2007年に駐車場所有者の北沢産業の管理者に許可を得て撮影)
同型の北沢産業DB2。JR網干駅近くに静態保存されています。1961年(昭和36年)日本輸送機製の10t機ロッド駆動タイプで、型式は同じDL10MC1067、製造番号は876001。こちらも世界の鉄道に掲載されていました。(ちなみに、沖田氏の機関車表に収録されている製造番号876002は読み取り誤りですので、引用して拡散しないようお願いします)
- 自 重 : 10t
- 全 長 : 5,250mm
- 全 幅 : 2,499mm
- 全 高 : 2,620mm
- エンジン : 三菱ふそう (130ps/2000rpm)
- 液体変速機:岡村製作所 RM18
- 最高速度 : 21km/h
丸佐運送のニチユ10t機と寸法も出力もほとんど変わりません。

■古河鉱業所有のニチユ8t半キャブロッド駆動 2011年8月、足尾駅前
次は足尾駅前の動態保存車。同じく日本輸送機製のロッド駆動半キャブで、同型、と言いたくなるところですが自重は10tより少し軽く8tです。古河鉱業の私有機で、1965年(昭和40年)7月製造、型式DL8MC1067、製造番号1105001です。普段は傷まないようにシートに覆われており、数年に一度イベントで動きます。

■くりはら田園鉄道DB101。協三工業製の10t半キャブロッド駆動 2013年、若柳駅跡
こちらも動態保存機ですが、残念ながら?日本輸送機製ではなく協三工業製の10tロッド駆動機です。元くりはら田園鉄道DB10形ディーゼル機関車DB101で、車体内部の銘板によると、1965年(昭和40年)6月製造、型式D10-1067、製造番号10470です。くりでん保存会が年に1回程度動かしていますので、運が良ければ動くところを見られます。入換に便利なように、通常はキャブ中央にある逆転器レバーが非公式側窓際に設けられているのが特徴で、それを除けば、平凡なスイッチャーです。ちなみに5~10tクラスの貨車移動機は、足でアクセルを踏み込んで速度を調整します。逆転器レバーは変速レバーではありませんので、ご注意ください。
2017年春にオープンしたくりでんミュージアムで、DB10形の形式図や諸元の記載された「宮城中央交通 車両竣工図表」が購入できます。DB10形の発注時はバス会社と合併していたのでこの社名ですね。以下に抜粋します。
- 自 重 : 9.8t
- 全 長 : 5,150mm
- 全 幅 : 2,499mm
- 全 高 : 2,620mm
- エンジン : 日野自動車 DS50A (80HP/1500rpm)
- 液体変速機: 新潟コンバータ 8A-1350
見た目はニチユ製に似ており、寸法もほとんど変わりませんが、製造者の違いから搭載しているエンジンと液体変速機が異なります。

■馬頭運送で保管中の協三工業製10t半キャブロッド駆動。 2014年、栃木県
こちらは、栃木県の馬頭運送が協三工業から引き取ったロッド駆動の半キャブです。たしか本社工場で保存されていたモノだった気がしますがうろ覚えです。連結器が柴田式自動連結器ではありませんが、土木工事軌道で使用されていたのでしょうか。馬頭運送は、全国各地から蒐集したスイッチャーを修復・動態化しており、那珂川清流鉄道保存会に移設されたものは公開時に動くことがあります。今回は4両紹介しましたが、他にもロッド駆動の半キャブをご存知の方は、情報お待ちしております。
●2017年10月7日追記
相互リンク先の西宮後停留場様より情報をいただきました。北海道の丸瀬布いこいの森に、佐藤工業製の10t半キャブロッド駆動が静態保存されているそうです。詳細はこちら。
【注意】
当記事掲載の写真は、特記の無い限りすべて公道(もしくは社会通念上立入りの許される区域)から撮影したものです。無断で私有地・社有地等へ立ち入ることは絶対におやめください。
【著作権の表示】
当ブログの著作権者は、特記の無い限り、私 「社長」です。当ブログのすべての文章・写真・図面および図表は、日本国の法律(著作権法)と国際条約によって保護されています。改変したものも含めて、著作権者に無断で複製・配布することは出来ません。
最近のコメント